スマートシェルフ概説
自動認識の手法のなかでもっとも広く応用されているのはバーコードですが、バーコードはもともとバーコードにシンボル化された個品単位での情報の読み取りを行って、シンボルに書き込まれた情報を自動的に認識する手法です。バーコードでは複数のシンボルを同時に一括して読み取るには、視野内にある複数のバーコードの画像をキャプチャーしてデコードをする画像処理による認識手法がありますが、キャプチャーするエリアが限られるために、応用できる範囲は極めて限定的です。
RFIDの技術を利用すれば、棚の上にある複数のRFIDタグを同時に一括して読み取って認識をすることが容易であり、作業の生産性を飛躍的に高めることが可能になります。
応用分野としては、図書館や書店の書籍、重要書類、商品、医薬品など多岐にわたり、常時にわたって情報の管理を行うことにより、以下のようなさまざまな利用に発展させることも可能で、管理精度の向上だけでなく管理の品質の改善、セキュリティの向上、さらにはより高度なビジネスへの展開も可能になります。
● 図書館の書籍:閲覧回数、閲覧時間、棚卸し、貸し出しデータとの照合、利用者との紐付け
● 重要書類:持ち出し時刻、返却時刻、利用回数、棚卸し、利用者との紐付け
● 商品:入庫日時、出庫日時、在庫期間、閲覧回数、閲覧時間、販売データの把握と照合、棚卸し
● 医薬品:入庫日時、出庫日時、在庫期間、鮮度管理、棚卸し、利用者との紐付け
【スマートシェルフの技術】
スマートシェルフは、個品に付けるRFIDタグ、タグの情報を読み取るRFIDリーダ、リーダからの信号を受けてタグとの交信を行うアンテナにより構成されます。RFIDで一般的に利用される交信周波数はHF帯(13.56 MHz)とUHF帯(920 MHz帯)がありますが、HF帯での交信速度は低速であり、多くのタグの同時一括読み取りにはUHF帯RFIDを利用するのが適しています。
物流の用途では、より離れた距離でのタグとの交信に適したアンテナが求められ、放射電磁界を利用したアンテナを利用するのが一般的です。それに対してスマートシェルフでは、特定の棚(シェルフ)の上に載っているタグだけとの交信を行い、それ以外の棚や付近にあるタグとの交信を行いにくい誘導電磁界を利用した近傍型アンテナが多く利用されます。
代表的な近傍型のアンテナとしては米国Impinj社が開発をしたBrickyardと呼ばれる製品が知られていますが、帝人(株)が開発した「セルフォーム」を使用したシート型のアンテナは、アンテナから3次元空間に放射される電波を利用するのではなく、東京大学のベンチャー企業である(株)セルクロスが保有する技術を使い、薄い樹脂製のシートに電波を封じ込めて、シートの表面から染み出すように放射される エバネッセント・ウェーブにより通信を行います。
スマートシェルフの構築では、棚の上に置いただけでタグとの交信が可能なこのシート型アンテナは、自由度の高さや運用の容易さにおいて多くの利点をもっています。ここでいう自由度の高さとは、たとえばシートアンテナを壁面に設置して、壁面に吊り下げたキーや工具などの管理にも利用が可能であり、さまざまな応用が可能なことを示しています。
現在このシートアンテナを使ったスマートシェルフは、帝人(株)が『RecoPick 』のブランドで棚管理システムとして提供しています。